茶枳尼天は、もともとインド起源の鬼女で、人間の肉を食らう恐ろしい存在である。仏教教典においては、仏の力によって仏法の守護神となり、日本にはこの形で伝わった。日本では、平安時代から姿を現し、「茶枳尼法」といった外法の儀礼や即位灌頂に登場し、人間の寿命と王権に深く関係する尊格となり存在感を増していった。中世後期になると、この茶枳尼天を中心とする曼荼羅が多数作成されるようになった。こうした曼荼羅では、茶枳尼天だけでなく周囲に様々な尊格が描きこまれ、茶枳尼天を中心とした壮大なスケールの信仰世界を体現している。
この種の曼荼羅作成・使用の確固とした目的は明らかではないが、現世利益をもたらす儀礼で使用されたというのが通説である。本発表では、この通説から更にふみこんで、この複雑な信仰世界が成立した背景を考察する。具体的には、大阪市立美術館蔵「茶枳尼天曼荼羅」など数点の具体例を分析し、日本密教における様々な尊格、例えば弁財天、茶枳尼天、聖天や宝珠法の関連性、彼らにまつわる儀礼とその教説の関係性を論じる。こうした分析から、室町時代の密教信仰の実態に迫ると同時に、真言・天台の祈祷と儀礼文化の社会的普及を探っていきたい。
使用言語: 日本語
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